ラグジュアリーブランドの成長とは?「カプフェレ教授のラグジュアリー論」その②

「カプフェレ教授のラグジュアリー論: いかにラグジュアリーブランドが成長しながら、稀少であり続けるか」その②

ラグジュアリーと芸術、強まる関係性

芸術化とは、芸術でないものを芸術に変換すること
成長すること
稀少であること

この相反する課題を解決するため、現代のラグジュアリーブランドが採用しているのが「芸術化」戦略です。本著が哲学的な品格すら持っているのは、この芸術に関する文章によるところが大きいのでは、と思います。

ラグジュアリー市場の芸術と見なされたいという欲望が増大するのは、ラグジュアリーが芸術であるからではなく、芸術として見られる必要性が今日では以前より増しているからである。

ラグジュアリーブランドの起源であり象徴である職人技ですが、産業として成長すればするほど、職人の関与は希薄化していきます。職人技に変わるストーリーとして、ラグジュアリーは芸術と関連することで、象徴としての権威を強める、これが「芸術化」です。本著によれば、芸術には

  • 道徳的・審美的な是認
  • 非商業的な意味合い
  • 高価格の逆説的な正当化

などの要素があり、芸術化したラグジュアリーブランドは、これらを取り込むことに成功しています。「芸術」とみなされることで、ラグジュアリーブランドへの欲望は、特権階級の贅沢ではなく、伝統や文化、創造性、悠久性といった正当な動機に変換されている、と言うのです。

この戦略に従って、芸術家、画廊、美術館、著名な建築家と結びつきを深め、創設者を芸術家として定義し直すことで、ラグジュアリーブランドは創造的な産業として、新たな価値を獲得しています。

ルイ・ヴィトンと村上隆、芸術化の先駆者

本著には、芸術化の先駆者として日本市場での展開が紹介されています。陳腐化してしまったブランドイメージを刷新するために、ルイ・ヴィトンは、すでに2000年には日本市場での芸術戦略を実行していました。有名な村上隆とのコラボレーションもまさにこれですし、ヴィトンに限らず、エルメス、シャネルが、世界的建築家による新たな旗艦店を次々とオープンし、そこで美術展やクラシックコンサートなどを精力的に開催しているのも、芸術化戦略に基づく展開だと言います。

思えば、私自身も数年前に「ヴァン・クリフ&アーペル展」(京都国立博物館)を体験して以降、ハイジュエリーを美術品として認識していることに、本著を読みながら気づきました!ビジネス書の枠を超えた読書体験に、少々興奮気味です。。。

フラットなインターネットでラグジュアリーはどうふるまうべきか?

 

インターネットはラグジュアリーの価値創出のために重要な時間と空間という2つの柱を破壊した。

手に入れるまでの困難さと要する”時間”、神殿での儀式のような購入体験のための”空間”がなくなることを始め、オープンで水平なインターネットと、アクセスが難しい存在であるべきラグジュアリーとは本質的に対立しています。

eコマースで購入しやすい存在になることはラグジュアリーブランドにとっては大きな危険であり、インターネットとラグジュアリーの関係には今だに答えはないようです。

売れすぎてはダメ!なラグジュアリーの方程式

ラグジュアリーの夢=−0.7+0.3×ブランド認知+0.6×伝統ー0.4×浸透度(夢の方程式)

ラグジュアリーブランドは自らの認知(アウェアネス)の水準と浸透(ペネトレーション)の水準の差異に最新の注意を払わなければならない

すなわち、広く知られ、ごく一部にしか購入されないということ

上記は、著者らが60のブランドを分析して得た「ラグジュアリーの夢の方程式」です。「夢」は質の良い認知(高い認知水準、伝統、伝説、歴史などに関する公の知覚)によって強まるが、浸透(そのブランドから商品を1個買った人の割合)が多いほど弱まってしまう、というのが、この方程式により表されています。

この方程式とともに、著者が指摘するのは、

ラグジュアリーブランドはインターネットで、単なる製品情報ではなく、ブランド文化を育てる深いコンテンツやオンリーワンのサービスを提供すべきである

ということです。事実、ラグジュアリーブランドでは、インターネットは主に「コミュニケーション」の場として機能しています。

ラグジュアリーでは製品はコミュニケーションであり、コミュニケーションは製品と同様に様式と細部に至る超質的な特別な要素をもって企画されなければならない

インターネットをブランドを経験する場=認知獲得とし、イメージを伝達しつつ、インターネットで販売する品目や数量については慎重に検討し、保守的に対応しているというのが現状とのことで、デジタル化する世界でのラグジュアリーの戦略については、まだまだ現在進行形の課題であるようですね。

芸術化、インターネットといった課題の他にも、生産拠点を移転してもラグジュアリーと言えるか? ラグジュアリーを目指す起業家が取るべき戦略とは? ブランドロゴは目立たせるべきか無くすべきか?といった、様々な問いをラグジュアリー戦略に基づき考察しており、どこを切っても読み応えのある1冊でした。

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