読みやすさと科学的正しさが両立する希少な書「データ栄養学のすすめ」

食と健康に関する情報について、「読みやすさ、わかりやすさと科学的な正しさの両立」を見事に実現!本著は素晴らしく、わかりやすく、とても面白かったのですが、それが故に、食に関する情報の「闇」は奥深く「一体何を信じれば、、、」と、途方に暮れる読後感。

佐々木敏のデータ栄養学のすすめ

耳慣れない言葉「データ栄養学」とは?

書名の「データ栄養学」というのは著者の造語です。

事実確認を怠ったまま社会に流される「食と健康の情報」があまりに多いと感じたことへのアンチテーゼ

として、著書が提唱しています。

本書の執筆にあたって、読みやすさ、分かりやすさと科学的な正しさの両立を目指しました。

と前書きに記されている通り、エビデンスをしっかりと提示しつつ、これほどわかりやすい本、なかなか見たことがないな、と。

1日に野菜を350g以上の根拠は?

例えば、第1章で紹介される「1日に野菜を350g食べよう」という国がすすめる健康施策(健康日本21)での推奨内容について。

前提として、野菜の摂取量の根拠となる研究を特定するところから著者の説明は始まります。

野菜の摂取量と寿命に関する研究は欧米で行われたもので、しかも、野菜だけでなく、”フルーツ&ベジタブル”、野菜と果物の摂取量を調べたものだそうです。野菜&果物の摂取量が増えるほど総死亡率は下がりますが、1日あたり5サービング(1サービング=78.5g) くらいで下げ止まります。そこで、欧米諸国では野菜と果物を合わせて「1日に5サービング」と良く言われているそうです。

世界のコンセンサスは野菜と果物合わせて1日400gというのが主流なのに、 なぜ日本では野菜だけを350gなのか?著者はそこについても解き明かしてくれます。

実は、西ヨーロッパ8カ国と比べて、最も野菜を食べているのも、最も果物を食べていないのも日本人だそうです。では、日本では果物を増やせばいいのでは?と単純に考えますが、日本では野菜の方が安いこと、”野菜は食事、果物は間食”という通念があること、などもあり、より取り組みやすく、印象に残って馴染みやすい、などの理由で

1日350gの野菜を食べよう!

というメッセージになったのです。このような、集団に呼びかけるやり方を

ポピュレーション・アプローチ

と呼びます。野菜を充分食べている人がさらに食べても寿命が伸びるわけではないことがわかっていますので、本来はこのメッセージは、野菜不足な人がターゲットです。しかし、そのような人たちだけにアプローチするためには、野菜の個人摂取量を把握する必要があり、手段がありません。そこでポピュレーション・アプローチ(集団への方策)の登場です。

費用が安くて、誰にでもできて、その方策を実行した時に害を被る人がいないこと。野菜による健康増進がポピュレーション・アプローチに向いていそうなことがわかります。

また、集団へ訴えかけるには、みんなに関心を持ってもらえて、印象に残って馴染みやすく、とり組みやすいと思えるイメージキャラクターが必要、それが「350g」という数値です。

350gという数値より「みんなでもっと野菜を食べてれば、集団全体として死亡率が下がる」というメッセージが重要なのだ、と著者は教えてくれます。

何が真実か?難しい食と健康の世界

健康的な食事、ビタミン、ミネラル、糖などなど。。。基本的なことから、流行のダイエットまで多岐に渡るテーマを、グラフやデータなどのエビデンスをもとに、著者の見識を交えながら、論じていきます。

例えば、食物繊維イヌリンの香です。血糖値を下げるとして機能性食品も販売されているイヌリンについて、統計学的には血糖値が下がると言い切れないという結論を導くのですが、本項のテーマは、イヌリンの効果の有無ではなく、研究論文に含まれる研究者の意図が省略されてしまっている状況についてです。

「may」に象徴される研究者の心づかいを消費者に届けたい

研究論文は、一人でも多くの人の健康に貢献したいと願って研究を重ねる研究者の努力の結晶

どうしてもある程度は結果が揺れてしまう栄養学の研究結果に対して、研究者がとても慎重に言葉を選んでいる

原著論文では、”may=効果があるかもしれない”だった研究結果が、いつの間にかmayが抜け落ち、”効果がある”に変わってしまっているケースが数多くある、ということを著者は私たちに伝えたかったのです。

その他にも、

ビタミンB1の摂取量が少ない人は夏バテになりやすいとか、ビタミンB1をたくさんとれば夏バテが改善数といった研究報告はほとんどない。

とか

カルシウムは多くとるほど良いわけでなく、少ないとこわいという特徴があることを、正しく理解すべき

とか

バランスの良い食事でも低脂質でも低糖質でもダイエット効果に大きな差はなし。ただし、人類という種にとって勝ち組の食である「肉」を諦めずにダイエットできる、というのが低糖質ダイエットの秘められた魅力であり、タンパク質の生産効率から考えたら、非常にエネルギー効率の悪いダイエットである

など、考えたこともになかった新しい視点で、次々と「食」に関する思い込みを打破してくれます。

食と健康情報は、まるで”迷路”のようにスッキリしない

このように、世の中の通説を反証するわかりやすい文献を読めば読むほど、栄養学の「迷路」に迷い込んだ気分になります。じゃあ、私や家族の健康のためには何をどうすればいいのだろう。。。とちょっと途方にくれてしまいます。

この”迷子”感を払拭できるかもしれない有望な分野が、身体のデータを解析し、ソリューションへ繋げる”ヘルステック”ではないでしょうか。新たなサービスが続々登場し、ますます面白い分野になることは間違いなく、私もアンテナを張って乗り遅れないようにしたいと思います。健康分野のPRは難しいですが、関わり続けたいテーマ、ぜひまたやりたいです!

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