教育論の流れを変えた名著!「学力の経済学」著:中室牧子

2015年の出版以降、経験・主観がまかり通ってきた教育論を、ガラッと変えた感のある本著。あまりに色々なところでデータが引用されていて、すっかり読んだ気になっていましたが、実はしっかり読んだのは初めてでした。

「学力」の経済学

「大規模なデータを用いて、教育を経済学的に分析することを生業」とするのが著者の専門とする教育経済学です。世の中で、教育評論家や子育ての専門家と言われる人たちの主張の多くは、教育者としての個人的な経験に基づいており、科学的な根拠がないこと、なぜその主張が正しいのか、という説明が十分なされていないことに、著者は違和感を感じています。

私は、経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てに関する発見は、教育評論家や子育て専門家の至難やノウハウよりも、 よっぽど価値がある

という「はじめに」での宣言通り、本著には見逃すことのできない研究結果がデータとともに、次々と紹介されています。

東大生の親の平均年収は約「1000万円」

薄々気づいていながらも、あまり語られることのなかった学歴と年収の関係。これをデータで見せつけたのも本著です。

子育てに成功したお母さんの体験談が多くの人に求められる一方で、そうした体験談では、往々にして、あまたの研究が示す「子どもの学力にもっとも大きな影響を与える要因」については、ほとんど触れられていません。それは親の年収や学歴です。

東京大学では、親世代の平均年収は約1000万円となっており〜〜「民間給与実態調査」(2012年)における給与所得者一人当たりの平均年収が408万円、「家計調査」(同)の2人以上勤労者世帯の平均年収が623万円

その他にも

ご褒美は「テストの点数」などアウトプットではなく、「本を読む」「宿題をする」などのインプットに与えるべき

といった、日頃の子どもへの接し方にかかわるエビデンスや、少人数学級の費用対効果の検証、学力テストの統計的な不完全さ(公立校だけ調査しても、私立校に学力上位が抜ける都市部の学力は測れないとのこと! その通り!)など、ミクロからマクロまで、様々な切り口で”「教育」にエビデンスを”ということを主張しています。さすがのベストセラー、研究者の良心を感じます。

「教育」も「ワーキングマザー」も個人的体験と社会課題が交わる分野、エビデンス必須!

さて、このテーマで高校生・小学生・保育園児と三者三様な我が子との関わりを考えない訳にはいきません。「その子の本質や強みは親がどうこうしたって変わるもんじゃない」というのは身に染みて感じつつ、親も含めた全ての環境や経験を、全部まるっと吸収して、子どもは育っていく訳で。

「この環境・この体験じゃなかった、、、」という”仮定”は、当事者として渦中にいるとなかなか考えにくいので、本著のようなエビデンスのある研究結果というのは、客観的な視点として、とても参考になります。あくまで統計だから全員に効果がある訳ではないが、それでも、「子どもを全員東大に入れた母親」の話よりは一般化できる結果である、というところが良い。

この明快さ、「教育」と同様、主観的になりがちなワーキングマザーを取り巻く雰囲気にもぜひぜひ欲しいものです。働き方については「残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか? (光文社新書)」などの功績で、ブラックORホワイト、〇〇ハラスメントみたいなラベル付けでなく、事実と結果をベースに対話できるようになってきた感があるのですが、「女性活躍」という分野は「みんな違ってみんないい」と追い詰めないように追い詰めないよう、真綿で包まれてる気がします。モヤモヤするので、ついつい「女性活躍」系の本ウォッチャーになっている昨今。

男とか女とか関係なく、人生楽しもう!とシンプルな結論は出ているんですけどね。

【新品】【本】「学力」の経済学 中室牧子/〔著〕

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