書評「プレイス・ブランディング」その②

第1部の理論編は、これから確立していく概念ということもあり、抽象度が高く、かなり歯ごたえありな文章です。正直、理論だけで理解するのはかなり難しい、、、これを見越してか、第2部事例編は一転してとにかく具体的。

プレイス・ブランディング地域から場所のブランディングへ

個別の取り組みの紹介でも、関係者のインタビューや地元の人の反応、現場取材など、取材を重ねた様子がうかがえます。

ポートランド、瀬戸内…プレイス・ブランド創造の現場

事例編では、ポートランド・瀬戸内・越後・南アルプスという4つの”プレイス”をピックアップ。それぞれがどのようにブランディングを成功させたのか、活き活きと紹介されています。”プレイス”としての変遷には、現地の魅力に気づいたローカルの人、外部の目線でその土地に魅了され移住してきた人、民間企業、もちろん行政の努力など、様々なアクターが絡み合い、いくつかの決定的な出来事があり、それらが多重的に継続してつながりあい、魅力を増していくのだ、というプレイス・ブランディング・サイクルの実践の様子が、よくわかります。読んでいて気持ちよくなるほど、それぞれのプレイスはとても魅力的で、特に、ポートランドは、いますぐ訪れたいほど素敵な「プレイス」だと感じさせてくれました。

ポートランド:自分らしい生き方を求めて

都市生活を楽しみつつ、周囲に残る森や清流、山々で自然に浸る。ポートランドは1970年代から戦略的に都市開発を行い、優れた都市政策(自然と折り合いをつけたコンパクト・シティ)とコミュニティの質の高さで、そんな理想的なバランスを実現しているといいます。例えば、

  • 中心部に公共交通機関を充実させ、
  • 自動車依存を減らし、
  • 衣食住が「20分圏内」で完結できるような街を目指す
  • 建物の1Fは店舗やギャラリー用途に制限する

など中心都市を衰退させない都市政策により、地域のコミュニケーションが生まれているといいます。それがITなどの知識産業とともに、アーティストやクリエイティブ層をひきつけ、芸術文化が発展してきました。

パール地区の再興、エースホテルの登場も手伝って、ポートランド市はDIY文化の中心地として人々に認識され、ポートランド・クラフトマンシップが喧伝されるようになった。

ポートランドに工房(メーカーズ)を持つアーティストたちのインタビューでは、彼らの生の言葉が紹介されており、アメリカンドリームとは全く違う価値観を持っていることがよくわかります。

うちのスタッフは全員ホームブリュワーが大好き。それでビール会社をはじめたんだ。生産量を増やしていくうちに楽しさが失われ、気づいたら工場で働いてるだけ、みたいにはしたくない。

私の人生のモットーは一言で言うと「軽い資本主義」(capitalism light)ね。(略)ガツガツ成功を追い求めるより、村レベルの成功でいいわね。私が大切に思っていることは、人生でのバランスのとれた成功。お金をもうけるだけじゃなくて、生活が楽しいかとか、時間の過ごし方とかも含めてね

アーティストをサポートするシェアリング・オフィス、自然と都市の近さを活かし創造される食文化など多面的な魅力が重なり、形作られてきたコンテンツは、いまやポートランドのイメージとなって世界に広がっています。プレイス・ブランディング・サイクルの最後のパーツである”イメージの拡散”で大きな役割を占めているのは、行政直轄でなく非営利団体として活動する観光協会、そしてメーカーズたちが発信するSNS、特にインスタグラムだそうです。

現在は、ブランディングに成功したが故に、地価や生活コストが高騰し、アーティストたちが生活できなくなる、などの弊害もおきているというポートランド。ぜひ一度現地を訪れてみたいです。

実践するにはマネジメントよりディレクション

プレイス・ブランディングの実戦においては、中央集権的なマネジメントではなく、アクターたちからディレクター(決まった目標でなく、ある方向へ誘導する人)が自然に複数発生し、たがいに得意分野をサポートしあえる関係こそ理想的、と著者たちは主張しています。話題の書籍「Teal組織」で論じられる、新しい組織の形そのものが複雑な事象の解決には不可欠ということが、本著を通して実感できました。

本著著者3名のご紹介

若林宏保氏/電通クリエーティブ・ディレクター

日本のさまざまなプレイスを対象としたブランディング活動を推進。

http://www.dentsu.co.jp/abic/index02.html

徳山美津恵氏/関西大学 総合情報学部教授

主な研究分野はプレイス・ブランディング、消費者行動論。

長尾雅信氏/新潟大学 大学院技術経営研究科 工学部協創経営プログラム 准教授

主な研究分野はプレイス・ブランディング、関係性マーケティング。

**徳山氏と長尾氏の共著に「宝塚ファンから読み解く 超高関与消費者へのマーケティング」という本がありましてとても気になる。私の(宝塚じゃないけど)ファン活を学術的に考えるとどうなるのか…絶対読む!!**



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