P&Gの元グローバル・マーケティング責任者によるブランド理念礼讃の書。
本当のブランド理念について語ろう 「志の高さ」を成長に変えた世界のトップ企業50
ブランド理念は必要不可欠、それを組織の力にかえるリーダーも必要不可欠
P&G出身のCMOの元でのV字回復の渦中にいた身としては、とにかく、元上司の仕事ぶりを思い出し続けざるをえない1冊。ブランド理念を起点にしたマーケティングの力を体感させてくれた尊敬する上司でした。。。
ブランド理念に優れた企業「ステンゲル50」
著者らは、広範な調査の末、ブランド理念の面で特に優れていると判断された50のブランドを「ステンゲル50」としてリストアップし、そのブランド群の投資利益率(ROI)の伸び率が、平均より約4倍も高いことを見出しました。つまりブランド理念は4倍の成長力をもたらすのです。
利他主義や企業の社会的責任(CSR)を理由に、ブランド理念を重んじるべきだと主張している訳ではない。ブランド理念が重要なのは、それがビジネスの根本的な存在目的であり、成長の原動力でもあるからだ。
なぜ高次のブランド理念がビジネスを成長させるのかを明らかにするのが本著の目的です。そのため、「ステンゲル50」にリストされたグローバルブランドの事例とともに、著者が、ブランド理念を中心に様々な改革を行ったP&Gでの功績が豊富に語られています。
ブランド理念を中心に据えたリーダーシップとは?
「ステンゲル50」の企業やブランドには、
優れた理念がある
ことに加え、
リーダーたちに下記の行動原則が共通していました。
・人間にとって大切な5つの基本的価値のいずれかの側面で、”人々の生活をより良いものにする”ことに関わるブランド理念を発見する。
・ブランド理念を軸に、企業文化を構築する。
・ブランド理念を社内外に発信し、社員と顧客の両方とそれを共有する。
・ブランド理念に沿って、理想に近い顧客体験を提供する。
・ブランド理念に照らして、ビジネスの進歩の度合いと社員の仕事ぶりを評価する。
これってつまり、全てのビジネス活動をブランド理念を出発点に行う、ということですよね。小さな組織ならともかく、グローバル企業でこれを真に実行するには、本当に経営戦略として、全員がブランド理念を軸にしないと実現できません。おわかりの通り、非常に難しいことです。
強いブランド理念は、人間の潜在意識に働きかける
さらに、ブランド理念の質、それも大切です。
急成長ブランドは下記の5つのどれかに関わるブランド理念を持っている、という指摘は、本著の中で強調される”高次の理念”を理解するために重要です。理念にも強い弱いがあり、人間にとって大切な基本的価値につながる理念であれば、より強く人々に働きかけることができるのです。
5つの基本的価値
1.喜びを感じさせるー人々が幸せや驚き、無限の可能性を体験する後押しをする
例:コカ・コーラ、リンツ、ZARA
2.結びつく事を助けるー人々が他の人達や世界と有意義な形で結びつく能力を高める
例:フェデックス、楽天市場、スターバックス
3.探究心を刺激する(人々が新しい世界や経験に乗り出すのを助ける)
例:アマゾン、アップル、ルイ・ヴィトン、パンパース、ビザ
4.誇りをかき立てるー人々が自信や力、安心感、活力を高める事を可能にする
例:ハイネケン、エルメス、ロクシタン、ベンツ
5.社会に影響を及ぼすー人々が現状を揺さぶり、社会全体に好ましい影響を与える
例:アクセンチュア、ダヴ、IBM、イノセント
この5つの基本的価値ー喜び、結びつき、探求、誇り、社会への影響ーのいずれかに根ざしたブランド理念を持つビジネスかどうか、今後のマーケティング実務に当たり、いつも心に留めておきたいと思いました。暗礁暗唱。。。
P&Gの武勇伝満載!
「ステンゲル50」ブランドの事例集も素晴らしい重厚感なのですが、何と言っても、本著の魅力は、著者のP&G時代のリーダーとしての成功ぶりを堪能することです。異動のたびに短期間で次々と組織を鼓舞し、成果をあげていく著者のリーダーシップは、文章を通しても惚れ惚れするほど。そのキャリアの過程で、自身が”ブランド理念”を中心にビジネスを進めていることに気づき、意識的にブランド理念を発見・構築・発信・提供・評価し、世界的な大成功を収めて行きます。この豊富なビジネス経験と、調査結果、そしてコンサルタントとして磨いた理論の鋭さが、本著の濃密な学びを作っていると感じます。
何度でも読み返したい本です、おすすめ!!
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