中川政七商店直伝のブランドの作り方:「小さな会社の生きる道。」

中川政七商店の十三代目が自身が宣言した「日本の伝統工芸を元気にする!」を実現するためにスタートした経営コンサルティングの実録と、その経験から導き出された小さな会社の生きる術についての解説の2部構成。

老舗を再生させた十三代が どうしても伝えたい 小さな会社の生きる道

著者 中川淳氏に関して予備知識ゼロだったので、ご年配社長をイメージしながら読了したのですが、カバーのプロフィール写真見たら、全然違った!とてもお若くて、しかも、本著出版の2012年後、2016年 中川政七襲名→2018年2月 社長交代→現在は会長と世代交代までされてます。かなりのスピード感をお持ちの方であり、中川政七商店も「変わり続ける」ことに長けた社風のようですね。

臨場感と説得力がすごい!コンサルティング現場の実況中継

本著の特長は、地方のものづくり企業5社へのコンサルティングの実例を記した第1部。月1回の打ち合わせの様子を軸に、実況中継のように記されているのですが、これが事例集としては、ちょっと見たことのない臨場感!対象企業の課題や、意思決定者の性格や個性など、プラスもマイナスもかなりオープンに率直に書かれており、日記のような中川氏のぼやきも交え、現場の雰囲気がかなり具合的に伝わってきます。

  • 兵庫県の業務用カバンメーカー”バックワークス社”に関する中川氏のコンサルティング料は月1回の訪問で25万円✖️1年間
  • 長崎県波佐見の陶磁器メーカー”マルヒロ”の社長の息子との出会いの時の人物評「どうも息子の匡平くんは、焼きもののことも、経営のこともあまり分かってないようだ。課題図書を出して読んでもらうことにする」(HASAMIブランドが大成功した2年後には「匡平くんこそマルヒロの強みだったのだ」というほどの信頼関係、盟友のような存在になるのですが)
  • 大阪府和泉の掘田カーペットの社長との初対面で「期待していない、ブランディングと言われても、対価が見えない。見えないところにカネは使えない」と言われ、依頼者の息子さんを挟んで、冷や汗モノの空気になる様子。

などなど、どの現場も個性的。これが、著者がコンサルタント・デビューした最初の5社での様子、ということなのですが、その全てで結果を出してしまうところも、いやカッコイイ!

コンサルでなく家庭教師!いつも全力

著者は、自身について「コンサルタントではなく家庭教師だ」と書いている通り、「ブランドつくり」の経験者として、当事者の企業が自力で事業を継続できるように誘導し伴走していきます。コンサルタントらしく、論理的な決断を示しつつ、”ものづくり”のチームとして、手間を押しまず知恵を絞り、新ブランドを成功に導くプロセスは、読んでいても本当にワクワクします。

本著は、本当にグッとくる名言だらけなのですが、その中でも例えば

私にできることは、会社に必要なゴールとそこに到達する道筋を描いて見せることである。言いかえれば「会社の『やりたいこと』を明確にし、そこに『できること』を集中させて実現しましょう」という活動だ。当事者のモチベーションが起点となるので、社内一丸となって取り組みやすい中小企業に向いている。

という1節。これは、社外から、プロジェクト単位で企業に関わる人なら、誰でも目指すべき状態であり、心に常に留めておこうと思います。

時には、ものづくりでなく・・・

5社の中で、ひときわ異色な案件が大阪・和泉の堀田カーペット。社長がコンサルティングに反対していた会社です。ここでは、新ブランド立ち上げではなく、カーペット啓蒙サイトを立ち上げることで課題解決を目ざす、という手法が取られました。

フローリングばかりが選ばれ、ユーザーはカーペット生活をしたことがない・カーペット施行できる職人が減っている・アレルギーとの関係で悪者扱いされている、など業界として先細っている。まずは、一般ユーザーに向けた「営業活動ではなく啓蒙活動」を行い、カーペット市場自体を大きすれば、堀田カーペットの売り上げも増える、ということです。

他の4社が状況は違えど、新ブランド立ち上げが主だったので、この1社のエピソードがは、コンサルを拒否する社長のキャラクターとともに、特に印象に残りました。

著者の考えるブランディングとは

第2部は、事例の中で触れられた著者の経営理念、ブランドつくりのやり方などのおさらいです。ブランディング部分について、ちょっと紹介しておきます。

著者のブランドの定義とは

「ブランディングとは、伝えるべきことを整理して、正しく伝えること」

ブランドづくりのプロセスは以下の通り。

①自分を知る

②相手を知る

③ポジショニング

④アウトプット

⑤コミュニケーション

⑥インナーブランディング

特に⑥インナーブランディングについては、改革を継続し続ける経営者らしい視点です。関わる人全てがブランドを理解し、体現できるようにならなければ、ブランドはすぐ変質してしまう、だからこそ、「やりたいこと」起点のワクワクするストーリーが大事になりますよね!

最後に、著者の近況についていくつか

社長交代の顛末と、14代目の社長の今、についてまとまった記事がありましたので、リンクを貼っておきま

300年企業の社長交代。中川政七商店が考える「いい会社ってなんだろう?」

「工芸の再生請負人」が、300年続く家業の社長を辞めた日。

https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/63666

トップダウンから最強のチームワークへ。中川政七商店302年目の挑戦

まさか自分の人生で、社長になる日が来るなんて。

https://sunchi.jp/sunchilist/narayamatokooriyamaikoma/66763

日本仕事百景 中川政七商店特集

中川政七商店が紡ぐもの

https://shigoto100.com/nakagawa-all

 

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