ラグジュアリーブランドを論じることがこんなにおもしろい、なんて!
カプフェレ教授のラグジュアリー論: いかにラグジュアリーブランドが成長しながら、稀少であり続けるか
「マーケティング研究はアメリカ主導だが、ラグジュアリーブランド論ならフランスのカプフェレ」とどこかで読んで、ずっと気になってました。図版を使わず文章で押し通す感じ、監訳者を困らせる”フランス人特有のエスプリ”など、決して読みやすくはありませんが、教授の個性が色濃く、講義を聞いているような没入感あり。マーケティング理論でさえフランス文学的にするクセありな本著、翻訳のご苦労がしのばれます!
成長のジレンマ、成長のリスク
本著出版の2012年時点、西洋のラグジュアリーブランド購入者の1/3は中国人で、シャンゼリゼの旗艦店では中国人旅行客が列をなしているそうです。まるでバブル期の日本人のようですが、その頃と異なっているのは、ラグジュアリーブランドが巨大グループ企業となり、グローバルな成長を目指していることです。かつてのような、馬具や旅行鞄の延長上のファミリービジネスではないのです。それを象徴するのがLVMH、ルイ・ヴィトンをはじめ60以上のブランドを擁する巨大グローバル企業です。中国人中間層など新たな消費者への浸透と、ラグジュアリーブランドというビジネスモデルの維持、この相反する課題に挑み、拡大を続けています。
ウォール街はLVMHに永遠の成長を望んでおり、それは一族所有会社によるラグジュアリーの考え方とは異なる
現在のラグジュアリーブランドは、最も裕福な富裕層という”幸福な少数者”だけが顧客ではなく、中間層、特に日本や中国を含むアジアの人々の贅沢品になっています。この成長について、
(現代のラグジュアリーブランドは)並外れた人々の普通なもの、かつ、普通の人々の並外れたもの(である)
というLVMHのCEOの言葉が、ラグジュアリー戦略の核心として本書に何度も登場します。ラグジュアリーブランドが成長を目指すということは、ターゲット層を拡大し”普通の人々の並外れたもの”になりつつ、エリート層が価値を認める存在=”並外れた人々の普通なもの”であり続ける、というジレンマを抱えることになります。
あるブランドが新興富裕層に好かれる、昔からお金持ちであった人々はあまり知られてない他のブランドに移る
稀少性と成長をどうやって両立するのか・・・これが本著の核となる命題です。
明日はどんなものが稀少になっているのだろうか?静寂、空気、調和、平和ーこれらは公共財であり私物化することが難しいが、世界のどこかで、そのような稀少性が与えられていることもあるかもしれない。
ラグジュアリーブランドは高級・高品質なだけではない
ラグジュアリーブランドが直面する課題について整理する前に、まずは、著者によって明確に定義されている”ラグジュアリー・ファッション・プレミアム”という3つのブランドビジネスのモデルの違いについて確認してみます。
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ラグジュアリーブランド 社会階層を示すシグナルとして、性能や商品だけでなく、エリート層の嗜好にかなう価値を売る。機能的価値を超えた高価格が設定される。製品ではなく、所有者とその能力や立場が比較される。
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ファッションブランド 時代に属するお洒落を売る。低原価で製造、シーズンはじめに高く売り、時代遅れになれば値引き。永続性は不要=長持ちする必要はない。成長するために流通を拡大。
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プレミアムブランド 他より良い製品、その階級で最高の商品を高く売る。販売量は制限しない。
さらに、著者の研究により、ビジネスモデルとしてのラグジュアリーには、ユニークな経営上の共通項があることが見出されています。例えば、
- 小売店経験の完全な制御
- 高度な職人技
- ライセンス販売なし
- 大特売をせず、販売促進もしない
- 平均価格を上げ続ける
などの多数の要素です。
ラグジュアリーブランドは、このラグジュアリー戦略に基づく非常に特異なビジネスであり、これを忠実に実践している企業は以前として強いが(例えばエルメス、ルイ・ヴィトン、フェラーリ)、多くのブランドは、ラグジュアリーであると自称しながらも、ファッションやプレミアムのビジネスモデルを選んでいる(例えばプラダ、バーバリー、ゼニア)ということを、本著では様々な実例から結論づけています。
誰もが知るブランドについて検証しながら、3つのビジネスモデルの違い、さらに、現在求められているラグジュアリーのあり方を明らかにしていく第4章・5章は、圧巻の面白さでした。
「ラグジュアリーブランドはいかに成長するか」という課題について、続きは次回に!
<追記>
カプフェレ教授曰く、本著は「ラグジュアリー戦略」と併せて読むべきとのこと。
ラグジュアリー戦略 真のラグジュアリーブランドをいかに構築しマネジメン [ ジャン・ノエル・カプフェレ ](楽天ブックス)
これまた、読み甲斐のありそう。。。本著「ラグジュアリー論」が、戦術レベルの、特に成長に関する課題から戦略に遡って考察する内容なのに対し、「ラグジュアリー戦略」はベクトル変えて、上流の戦略を論じているそうなので、併せて読めば、より理解が深まるはずですね、こちらも楽しみです。
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「フランス発のブランド論「カプフェレ教授のラグジュアリー論」その①」への3件のフィードバック