スタジオジブリ・プロデューサー鈴木敏夫が三人の禅僧と語る禅問答。
自由な会話の心地よさ。図版豊富な編集もよい
東京・龍雲寺の若き住職 細川晋輔和尚が、司会として先導します。細川和尚はジブリで育った世代で、問答でもジブリ作品に多く触れています。例えば、”「わからない」強さ”という章では、こんな問いかけから始まり、鈴木さんとの対話が展開します。
モロが主人公の少年アシタカに「お前にサンを救えるか」と訊く場面がありますよね、ヒロインを救えるか、と。アシタカは「わからぬ」と答えるんです。このセリフに禅問答のような深いものを感じたんです。
「わからぬ」というセリフ。まさに達磨の「不識」じゃないか、と。
全五回の問答を対話形式に切り取った本著ですが、全編を通して
- 「今」のことをちゃんと
- オリジナルということ
- 幸せに必要なこと
など、禅の教えにとどまらず、それぞれの経験や考えなどが会話形式で語られます。師匠でも師弟でもない関係で、話題は自由に軽やかに広がっていきます。
会話が転換するたびに挿入されている、達磨図や書といった仏教芸術、著者の書や絵などが、禅問答らしい雰囲気を形作っています。また、鈴木さん執筆のコラムも章ごとに挟まれ、いつもの鈴木Pらしい楽屋話的な面白さで、禅問答の”結末のなさ”を、なんとなく帳消しにしています(笑)。書籍として、上手に構成されてるなぁと感心。「禅」の世界に読者を誘いつつ、ジブリファンへの心遣いも忘れない、サービス精神がすばらしい!
宮崎監督の新作宣伝も忘れない、これぞプロデューサー(笑)
プロローグは「間(ま)のこと」という一文。宮崎監督が現在手がける「君たちはどう生きるか」への期待をマックス煽り立てます。この辺りは、いつもの鈴木節でさすが。
1ヶ月半後、新しくCパートの絵コンテが完成した。感想を言葉にすることすら叶わない、そのくらい素晴らしい出来だった。今度は、ぼくが言葉を失う。陳腐な褒め言葉は、このコンテに相応しくない。
2019年現在で、77歳の宮崎監督、引退会見をしたとはいえ、また長編映画の制作にとりかかり、事実上、監督に復帰している状況です(昨年のNHKスペシャル、私も見ました!)。
「作っている途中で死ぬかもしれない」
その気持ちが彼を駆り立てる。僕の老後の楽しみはどこへ行ってしまうのか。しようがない。宮さんと共に生きて来た人生だ。協力せねばと覚悟した。
二人で一人、宮崎監督と鈴木P
最近気になる“クリエイティブ・ペア“(過去投稿「POWER OF TWO 二人で一人の天才」参照)という関係性、ジブリの監督たちと鈴木敏夫プロデューサーも、まさにクリエイティブ・ペアだと思います。ジブリについての考察は作品や監督が中心になり、鈴木さんの立ち位置も”プロデューサー”として固定されています。しかし本著では、禅問答が主役、ジブリも監督も、鈴木Pも脇役。だからこそ、他の書籍では表現されないジブリ内部の人間関係や創作の現場が垣間見えて、興味深かったです。
実はあの映画は、制作に入る前に宮さんは毎日もがいてたんですよ。ある日「鈴木さん、散歩に行こう」と声をかけてきて、かれこれ3時間、歩きまくりました。ヘトヘトに疲れて喫茶店に入って席に着いたとたん、彼が「何を作ったらいいんだよ!」って言うんですよ。原作はある。でも何を描いたらいいのかわからないって。そんなとき、僕は何か言わなきゃいけない役回りなんですねぇ。そこで僕が言ったのは、「思春期」。「宮さんはすでに子どもは描いた。大人も描いた。でもその間にある思春期はまだ描いてないでしょう」と。そしたら、彼は「わかった!」と手を叩いて、突然そばにあったペーパーナプキンにキキの顔を描いたんです。
こんなエピソードがきっといくらでもあるんでしょうね。。。後世まで残るのは宮崎監督の名前だけかもしれません。でもこの二人、このチームだからこそ作られた作品たちである、ということを感じます。
また、ご自身を「受け身」と称する自己評価、これも面白かったです。
ジブリを作る前、宮さん、高畑さんと三人で「映画会社やりたいね」「スタジオやりたいね」って話していてね。二人は監督やるのが決まっているからいいけど、僕は何をするんだろうと思っていたんです。そしたら宮さんが「じゃあプロデューサーは鈴木さんだよね」って。僕は最初からプロデューサーは雑用が多いとにらんでいたんですよ。嫌だな、も思いつつ結局役回りとしてそれをやらざるを得なかった。これも受け身です。
そんな立派なものじゃないですよ。二人に引っぱられて生きているんです、本当に。僕、自分のことを振り返ってみると、なまけ者だしね、あんまり努力もしない。だからあの二人に会わなかったらどうなっていたんだろうと、この期に及んで思いますねら、二人共よく働くんですよ。
作品を作らずにはいられないクリエイター、とその二人をサポートしつくすプロデューサー。役割分担が明確な、素晴らしいチームだったんですね。起業に重要な”チーム作り”の一例、ここにもありました!!
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