ジブリ映画の新しい見方を授かった!「誰も語らなかったジブリを語ろう」

押井守監督が語るジブリ評。目からウロコの指摘の数々で、積年の謎が色々解けた感じ!しかも、宮崎作品だけでなく、ジブリ全作品について語る、たまらない企画です。

誰も語らなかったジブリを語ろう (TOKYO NEWS BOOKS)

”ジブリに関してはちゃんとした評論が書かれたことがない”

押井監督は、本著の意図として下記の2つをあげています。

  1. なぜジブリ作品は絶賛されつづけるのかを明らかにする
  2. ジブリの歴史的背景を検証する

歴史的背景も大変興味深かったですが、本著はやはり「スタジオジブリを批判的にみる」初の試みとして大変意義があると思います。しかも、宮崎駿、鈴木敏夫、高畑勲全員の性格や仕事ぶり、アニメ界の状況、そしてアニメ映画そのものを深く知る押井監督が語る、ということで面白くないはずがない!まさに、ページを繰る手が止まらない、一気読み必至です。

”巨匠の場合、日本では批判の対象外ですから。”

子どもの頃に映画館で見た「風の谷のナウシカ」、ヒット連発の偉大な「スタジオジブリ」が成立する以前、大した期待もせずに見た私にとって衝撃の面白さでした。取り憑かれたように夢中になり、メーヴェで飛ぶナウシカに憧れて、毎日、サントラレコードを聞いていた小学生は、宮崎駿作品とジブリを愛する大人になりました。

ただ、自分がジブリになぜ惹かれるのか、ちゃんと理解できていない感じは常にありました。とにかく気になる存在なので、ジブリ関連の本は見かけると読んでますが、これだけ愛されてるのに、驚くほどに客観的な文章が少ないな、とは思ってきたのです。目立つのは、鈴木敏夫プロデューサーの著作(想い出話)で、あとは公式設定本だったりで、、、その謎について、本著で一つの解を得ることができました。それが「思考停止」です。

日本人って大成功したものはツッコみを入れないんですよ。黒澤明だってそうでしょ。

ジブリをけなしても誰も得をしないから。それこそがジブリの功罪

押井監督は、本著で何度もジブリに対する国民的な「思考停止」を指摘しています。

アニメーションを映画のスタンダードにした。しかし、同時に評論をことごとくできない雰囲気も作ってしまった

そうか、そうだったのか。だから、スタジオジブリが解散したあと、みんながようやく少しづつ語り出したのか。

例えば「ジブリで働くということをリアルに伝えてる感あり」な珍しい文章が下記の記事、ここにも「終わったから言えることですが、、、」といった雰囲気が染み出しています。

ジブリと宮崎駿の呪いリストラされた後継者たちの「その後」

https://www.buzzfeed.com/yuikashima/studioponoc-studioghibli?utm_term=.ukYDxAZMP#.rp26MBmRx

”あの人の妄想は確かに人を揺り動かす力があるんだよ。”

彼の作品を支えているのは演出力じゃなくて、アニメーターとしての手腕

飛んだり跳ねたり走ったりするだけで、エモーショナルな何かを喚起できる力。そういうことができるのは宮さんだけ。

ジブリ作品と言っても、やはり気になるのは、宮崎駿監督作品への評価です。押井監督は

長編映画に必要なドラマや葛藤、世界観、そして一貫した構造、そういったものを作り出す才能は宮崎駿には全くない

と一刀両断しています。

宮崎作品の魅力は「ディテイル」のみに宿っている

というのがアニメーターであり映画監督である押井監督の見解です。

綺麗なものを手品みたいに瞬間的に見せる。その才能はあふれかえっている。あの人の妄想は確かに人を揺り動かす力があるんだよ。だけど、1本の映画に構造を作り出すとか、世界観を作り出すとか、物語を作り出すとか、そういう才能はない。

ディテイルというのは、つまりこういうことです。

宮さんの映画を語るときの常套句が「あのシーンが凄かった」「あの子がかわいい」「あのキャラクターが最高」。「あの」しか出てこない。作品全体で語るということが、まずないんだ。

本著には、こんな名言がたくさんありまして、引用する手が止まりません。。。押井監督の、そして聞き手であり映画ライターである渡辺マキさんの流石の仕事ぶりを感じます。

でも、この「あの」を語れることそのものが、世代を超えて愛される大きな理由だと私は思います。親子で見るアニメとして、お気に入りのシーンをたくさん共有できる、というのは、ドラマを共有するよりも、年齢を選ばず、とても容易な共感の形だからです。

”実は世間は宮さんに、壮大なテーマとか、この世の中をどうしようなんてこと、求めてなかったということ”

歳を重ねるにつれ、具体的には「もののけ姫」あたりから、宮崎監督がコントロール不可能、つまりやりたい放題になってしまった、と押井監督は言います。何をやってもヒットするから、誰も止められなくなってしまった、と。本著では1作品ずつ、どの部分の破綻が目立つのか、主役級なのに描き切れてないキャラクターがどれか、作り手の老いが影響しているシーンはどれかなど、非常にユニークな視点で解説されています、批評だけでなく、絶賛する言葉も多く、押井監督の指摘を踏まえて、もう一度各作品を見ると、また違った印象になりそうです。

どのように、やりたい放題に映画を作ろうとも、

「せめて映画の中だけでも素晴らしいものを見せたい。それがオレの仕事だ」

というのが宮崎監督の情熱であり、それは私たち観客にもしっかりと届いていると思います。

実は世間は宮さんに、壮大なテーマとか、この世の中をどうしようなんてこと、求めてなかったということでもある。あるファンが「ジブリの映画を観ている間だけは自分が許せるんだ。とってもいい人間になったような気がするから。でも翌日から、またロリコンのアイテムを集めまくるのは判りきっている。自己嫌悪に思ってしまうよ」というようなことを書いていて、これは面白いと思った。確かにその通りかもしれないって。

病みつきになる魅力があって、子供達も見せると必ず夢中になって、何か教訓めいた気分になるよりも、「ハウルかっこいいね」とか「マルクルかわいいね」とか「トトロに乗って空飛びたいね」とか「バルス!」などと言って楽しむ。つまり、押井監督の言っている通りの鑑賞の仕方をしていることに気づきました。

私のジブリ観が押井語録に塗り固められそうなので、次の猛者がまた違ったジブリ評を早く世に出してくれることを、切に願っております。。。

<関連過去投稿>

書評「魔法使いハウルと火の魔法」

ハウル原作本である英国ファンタジーに関する投稿です。原作とあらすじは一緒なんだけど印象の違いに驚きます。

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