「錯覚資産」という造語をキーに…というより「錯覚資産」のことだけ何度も何度も繰り返し言い続けている本。章立てなどあってなきがごとくの確信犯的な構成が、本読みとしては、一番の興味ポイントでした。
「錯覚資産」とは、”他人が自分に対して抱く、自分に都合のいい錯覚”のこと。行動心理学や脳科学などで科学的に説明されているハロー効果・利用可能性ヒューリスティック・感情ヒューリスティック・置き換え・デフォルト値バイアスなどなどの、人間の認知バイアスのうち、自分に有利なものを総じて「錯覚資産」と本著では呼んでいます。著者は、成功したビジネスパーソンであり(と自己紹介している)、匿名の有名ブロガーで、文章もブログのような読み心地、スラスラ読めます。
悪魔、醜悪、ズル…アイキャッチさせる刺激的な言葉使い
書名の通り、世の中の評価や決断が実力ではなく「錯覚資産」をベースにしていることを、様々な例や図表でわかりやすく説明していくのですが、特徴的なのは、この「錯覚資産」のことを、
- 悪魔の武器
- 醜悪な生き方
- 欺瞞
- ズル
といった刺激的な表現で散々にこけおろしていること。本著の9割くらいは「錯覚資産」の悪口(!)で占められいます。では、「実力を磨いて正直に生きろ」というのが結論か、というとそうではないのです。自己啓発系やビジネス書嫌いな人、成功すること自体になんらかの心理的抵抗や屈託がある人を引き込むために、「錯覚資産」をこき下ろし続けるふりをして、亜最終的には、
「錯覚資産」には抗えないからうまく使って賢く生きろ
というところに結論があるのです。
思考の錯覚を武器として使いこなせば、それはステルス兵器のような、強力な武器になる。
認知バイアスの不可視性は、諸刃の剣なのだ。思考の錯覚を敵に回すか、味方につけられるかで、人生は劇的に違ってくる。
思考の錯覚を味方につけるには、錯覚資産という概念がキーになる。
要は、「一貫性、原因、結論」の3つを過剰に求める傾向に注意していれば、自分の思考の錯覚に気づいて修正しやすくなるし、他人の思考の錯覚を利用して、自分に有利に物事を進めることができる、というわけだ。
悪魔だ醜悪だと言い続けた「錯覚資産」を「味方にしろ!」という本当の主張が出てくるのは、本のかなり後半部分ですので、お見逃しなく。
価値をひたすらに説得し続ける、この手法は…
この、同じことを繰り返し言い続ける手法、書籍では珍しいですが、「なんとなく既視感があるなぁ」と思って考えてみると、WEBのランディングページ(商品販売ページ)や、ショッピング番組とよく似ています。同じ商品の価値や効能を、いろんな角度からひたすら説明し続け、たまに購入方法を挟み込むやり方、これが、書籍という媒体でも有効であることは、本著が2018年9月19日のアマゾンでベストセラー1位となっていること、レビューの内容から、自己啓発書を読んだことがなかった層が読み「もっと早く知りたかった」という衝撃を受けていることからも、明らかで、PR施策を考える歳にも、改めて参考にするべきだと感じました。
「錯覚資産」とは自分ブランディングである
「錯覚資産」という言葉に、何か新しい響きを感じさせますが、本著の主張は、キラキラ系の自己啓発書と全く同じです。「他人の中の自分のイメージをどうしたいか?」というのは「自分をどうブランディングするか?」ということ。つまり、自己ブランディングの本なのです。
「錯覚資産」という言葉、「ブランドとは何か」を説明するのにとても良い表現なので、ブランディングのお仕事の時に積極的に使ってみます。
<関連投稿>
”(期限の忘却を経て)ブランドは以前から有名であったがゆえに有名であり価値がある、と消費者から信じられるようになる。”というブランド成立に関する一文が、田中先生の「ブランド戦略論」にあります。これってまさに「錯覚資産」ですよね!!
「ブランド嫌いのための自分ブランディング本「人生は、運よりも実力よりも『勘違いさせる力』で決まっている」」への1件のフィードバック