書評「プレイス・ブランディング」その①

「地域」ブランディングの転換期

「地域ブランド」に長年かかわる著者の若林氏(電通 クリエーティブディレクター)が書くように、「地域」をめぐる状況は確実に変わってきています。”新しい働き方”である地域移住が現実的になり、地域の魅力はクリエイターにより再発見・拡散され、訪日客が新しい視点を持ち込み…などその変化は生活者としても日々感じられるものです。人々の意識の変化と、国家レベルでの「地方創生」戦略とで「地域ブランド論」は転換期にあり、考え直す時期である、というのが本著の前提です。

プレイス・ブランディング — 地域から“場所”のブランディングへ

日本独自の「プレイス・ブランディング」を

著者グループは日本初・日本独自の「プレイス・ブランディング」の分野の確立を目指しており、本著もそれを実現するために

  1. 海外のプレイス・ブランディングの研究成果などを踏まえた「理論」
  2. ”ポートランド”や”瀬戸内”など「事例」
  3. 日本独自のプレイス・ブランディングをどのように実行していくかの「実戦」

という3部構成です。

理論編は、まず、これまでの「プレイス・ブランディング」を簡潔に密度濃くなぞります。

ブランド論、マーケティング論の発達とともに、

ディスティネーション→シティ→プレイス

と、より包括的に「地域」をとらえ発展してきた変遷や、企業ブランドとプレイス・ブランディングの共通性など、とてもわかりやすい!。

アーカーやケラーのブランド論をベースにした「戦略的プレイス・ブランド・マネジメント(SPBM)」モデルは、マーケッターには馴染みの手法をプレイスに当てはめた納得の内容でした。ただ、著者は日本の現場で成果が出ていないことを強く感じています。そもそも、ステークホルダー(=アクター)が多いのに強い権限が存在しにくい日本の状況では、欧米のようなトップダウン型マネジメントでプレイス・ブランディングの成果を出すのは難しいようです。

”プレイス”に関わる人が大事。継続が大事。

本著では日本独自の「プレイス・ブランディング」は、理論編2・3章で提案されてはいますが、「これから確立していく」という言葉通りかなり抽象的。でも、

「プレイス」は、

これまでよりもっと個人の感情や経験に基づいたものになるべき

アクターが関わり続けることで再生産される

というイメージはつかめました。この”人の感覚や経験を大切にする”というのは「人文主義地理学」的な考え方だそうで。

さらに、新モデルとして「プレイス・ブランディング・サイクル」が提唱されています。

https://dentsu-ho.com/articles/6106

上図の通り、LOCATION(立地)とSENCE OF PLACE(プレイスの意味づけ)の定義がまずは起点。中心の「交わりの舞台」に、多様なアクターが「いかに交わっていくか」というのがこのモデルの核心です。アクターたちの活動でプレイスが再構成され、その先にようやくイメージ(=ブランド)が拡散していくフェーズがある、ということです。

情報発信ばかり先行しても、実体が伴わなず、予算がきれたらおしまい、、ということですね、、、、よくありますね。。。

ここまでが理論編。事例編と実戦編については、また後日!



書評「プレイス・ブランディング」その①」への4件のフィードバック

  1. とてもわかりやすく本質を掴んで解説して頂きありがとうございました。
    どのように解釈して頂いたかを伺うことができ、私たちも大変学ばせて頂きました。
    これからも書評を拝見させて頂きたく思います。

    1. コメントいただき大変光栄です。マーケティング、特にPRに関わるものとして、日本の”プレイス・ブランディング”の成功に寄与したいと思っておりますが、ご著作を拝読し、その想いを改めて強くいたしました。と同時に、困難で長い道のりであろうことも再認識いたしました。これからも勉強させていただきます!

HANA へ返信する コメントをキャンセル

メールアドレスが公開されることはありません。